百貨店の集客に有効なマーケティング戦略とは

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そごう・西武百貨店の2021年正月広告
2021年の正月、そごう・西武百貨店の広告が昨年に続きまた話題になりました。
全国紙に掲載されたのは1枚のレシート。そしてこのキャッチコピー。

「百貨店が売っていたのは、希望でした。」

これを見てジワリと来た人が少なくなかったのではないでしょうか。

長引くコロナ禍の影響は百貨店にも大きな影を落としていますが、まさに「レシートは、希望のリストになった」と思いたい、関係者の想いが伝わる広告でした。

昨年2020年も、そごう・西武百貨店は正月広告で話題をかっさらいました。広告の上級者ならではの、工夫が秀逸でした。

そごう・西武百貨店の正月広告がバズった理由

2020年が始まり話題となったのが、そごう・西武の「さ、ひっくり返そう」をキャッチコピーにした広告でした。

この広告がバズった理由は

・逆読みすると反対の意味になるクリエイティブさ
・受験勉強の生徒にも伝えたい、と思うほどメッセージ性が強い
・賛否評価する人がいる

という点があげられるでしょう。

今年一年の抱負のように、そごう・西武の意気込みや改革への姿勢が表れた今年の広告。百貨店がおかれた逆境をひっくり返す意味と、グループ社内へ向けて「やるぞ」という強い意志が込められています。

西武の広告が紹介されていた記事を引用させていただきます。

週刊紙:「WWDジャパン」より
【そごう・西武が正月広告で「ひっくり返したかった」2つのこと】
引用元https://www.wwdjapan.com/articles/1007961

本記事はWWDジャパンの記者が、仕掛け人であるそごう・西武の相原秀久営業企画部宣伝担当部長にインタビューをしたものです。

※昨年19年の広告にて、安藤サクラさんを起用したパイ投げ広告での炎上したことを引き合いにしたときの対応について

WWD:火消しのためにどう対応しましたか?
相原:結局、当社の場合は取り下げることなく、年末まで予定通りポスターを店内などに掲出しました。もともと元日にモデルが誰だかわからないパイ投げの広告を発表して、数日後にタネ明かしとして安藤サクラさんのシンプルなビジュアルに差し替える予定でした。
批判が殺到したら、ひとまず広告自体を取り下げる方が企業としては無難かもしれません。ですが当社はトップの林(拓二そごう・西武社長)の強いリーダーシップもあって継続しました。
ご批判はご批判として受け止めますが、だからといって謝罪や取り下げは違うと思うのです。

※昨年19年の広告大炎上と百貨店の事業不振という2つの裏テーマの話題になり、今回の広告のポイントについて以下のように述べられています

WWD:新聞広告のコピーやビジュアルのポイントは?
相原:まず角界で最も小兵な力士ということで、とにかく彼自身を小さくみせようと考えました。ポスターでも広告でもそうですが、皆さんは読もうと思って読むものではない。目に留めてもらうには、ぱっとみたときの違和感や摩擦感が大事ですね。
今回も、たとえ炎鵬を知らない人でも「ちっちゃい!」と興味を持ってくれれば最初のハードルはクリア。キャッチコピーもポジティブで力強いですが、それだけでは物足りない。
本文も最後まで読んでもらうためにどうするかを考え、あえてネガティブなことをいってみようかと生まれたのが「逆読み」のアイデアです。

AdverTimes.より
【正月のそごう・西武の広告に対する賛否から、広告の効果について考える】
引用元 https://www.advertimes.com/20200106/article305019/

※今回の広告には来店効果がない?というテーマにて 一部抜粋

もちろん、こうした意見はわからなくはないのですが、この新聞広告はそもそもそれを見ている人が百貨店のことなど頭にない状況を考えてつくられています。つまり、この広告はまず広告のメッセージそのものに関心を持ってもらうことを期待しています。
その上でこれが西武・そごうのものであることに気付いてもらえれば良いわけです。したがってかなり広い潜在的顧客に向けられたメッセージなわけで、話題になることはそのメッセージがアテンションを得たという効果を示しているわけです。

選択の合理性がないと批判する人は、この正月広告で競合となるような百貨店や流通が、これほどにはインパクトのある話題性をつくっていないという状況をみる必要があります。

百貨店は全国津々浦々にあるような流通ではないため、直接的な潜在的顧客の層は厚くはないわけです。全国的に名の知れたブランドであることももちろん大きいのですが、この広告によって「そういえば最近西武百貨店に行っていないな」と思い出させるだけでも効果あり、とも言えるのです。

記事内にも記載がありましたが、親会社のセブン&アイ・ホールディングスから20年に5店舗を閉店するという発表があり、今回の広告にはいわゆる負け続けの西武が内外ともに起死回生を目指す、という伏線があるようです。

これはなにも西武だけに限らず、地方大手百貨店の閉店など、百貨店を取り巻く環境は厳しい状況にあるのは事実です。

西武帝国VS東急商店 それぞれの戦略

西武と東急の百貨店戦争の歴史は1967~68年に渋谷に西武百貨店と東急百貨店ができたところから始まります。

かつての渋谷は西武と東急が競い合うことで、ハイクオリティでファッション性の高い商業施設群の待ちへと発展。その結果渋谷は若者が集まる街となり、いまでは外国人観光客の聖地的な場所になっています。

そごう・西武は経営改革により多数の店舗を閉店・売却という縮小をしつつも、2018年12月、企画室に成長戦略推進部を設立し成長戦略プランの構築と実践で再度復興を目指しています。

渋谷パルコも2019年11月に大改装を行いリニューアルオープン、デジタルとの融合で新たな買い物のありかたを提案しています。

東急グループの渋谷改装 100年の一度の改革

対して、2012年に渋谷ヒカリエが、2019年には渋谷スクランブルスクエア第1期(東棟)のオープンと渋谷駅の大改築。「世界のSIBUYAへ」をスローガンとした重要施策い取り組む東急グループ。

2022年には創立100周年を迎えることにちなんだ100年の1度の改革とし、渋谷駅そのものがどんどん「東急化」しています。実際に渋谷スクランブルスクエアは開業から3カ月で来館者数が600万人を突破、同施設内のSIBUYA SKYは予想を大きく上回る40万人が来場しています。

この「渋谷リブースト改革」は今後も続き、2027年には渋谷スクランブルスクエアの全体開業を予定しています。

【参考】東急グループ:中期3か年経営計画
https://www.tokyu.co.jp/ir/upload_file/m002-m002_05/20_genko_j.pdf

百貨店も戦略なしには生き残れない時代

西武百貨店は2020年の8月までに4店舗、2021年の2月までに2店舗と計6店舗を閉鎖する予定ですが、百貨店全体が今後進むべき道や解決すべき課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

まずひとつは、ファッション業界などの最先端の流行をつくる役割を百貨店が果たせなくなってきている点。

いわゆるカテゴリーキラーと呼ばれる、分野ごとに特化した専門店が世の中の流行をつくっていく時代であり、網羅性の百貨店の魅力は限定的なものになりました。

そしてもうひとつの原因はネット通販の台頭です。

百貨店業界でもインターネットを通じての販売にも取り組んでいるものの、前述したファッションにしても、食品、コスメ、宝飾品、その他百貨店で取り扱う商品はそれぞれ他の専門店に及ばない点が多く存在します。

たとえば食品。名産品を買おうと思ってもわざわざ百貨店を経由せずとも、その業者自体がネットで販売しているため、わざわざ百貨店や百貨店の通販サイトで消費者が購入する意味合いがなくなっています。

ただし百貨店を支えてきた裕福な高齢者たちにはいまだに圧倒的な支持を集めています。百貨店をひといつのブランドとし、贈り物は「〇〇百貨店で購入した高級品」としていまも根強い人気があります。

百貨店が生き残るためには、東急株式会社のような大掛かりなプロジェクトで街づくりを進めるか、裕福な中高年層をどこまでも取り込んでいくか。

日本橋三越内にビックカメラが誘致されニュースにもなりましたが、百貨店を活性化するためにはこの三越伊勢丹の事例のように独自のポジションを築き上げ、強みを打ち出す必要があります。

広告戦略だけで売れる時代は終わった?

人は1日に3,000件以上もの広告を目にしているといわれています。

新聞、Web、テレビ、駅などの街頭広告、無意識のうちに目に「ただ単に入って」きている広告のうち、「目にとまる」広告は50件程度でさらに意識的に心に残るのは3~4件だとか。

広告自体が無意味ということではありませんが、あふれる情報にさらされ続ける消費者に対して、通常の広告による宣伝・プロモーションでは費用対効果に見合うような効果は期待できなくなってきています。

そういう意味では、西武のようにSNSが炎上するほどのインパクトが提供できれば、賛否こそあれ、宣伝としての効果は最大化されることになります。

SNSでよく用いられる言葉でエンゲージメントというものがありますが、これは反応を示す指標でたとえばtwitterであればそのツイートを何人の人がみて、どんな反応をしてくれたかがわかるもの。ほとんどの企業もSNSを通じてエンゲージメント、いわゆる消費者の動向をさぐります。

情報過多な世の中、広告ひとつで簡単にヒットする時代は終わりました。今後の宣伝戦略は、いかに消費者の読んでニーズをつかみ、行動変容を起こさせるかという点にかかっています。

大手百貨店が「IT企業」をめざす理由とは

銀座三越

インバウンド商戦を制した三越伊勢丹HDが「おもてなし×デジタル」を打ち出すなど、百貨店も続々とIT化を進めています。

その例を店舗ごとにまとめました。大型店舗でも続々オンラインとオフラインの双方向を狙ったサービスが提供されています。

三越伊勢丹HD

三越伊勢丹グループは3カ年計計画でオンラインとオフラインのシームレス化を実施、お客様に最高の顧客体験を提供する、という新しい百貨店ビジネスモデルを展開する予定です。

シームレス化というのは垣根がないという意味。時間を問わずサイトで商品を検索して納得してから、実店舗で気に入った商品を購入する。もしくは、店舗で確認した商品を家に帰ってからサイトで注文する、といった形です。

もうひとつはデジタルを活用した接客サービスの「質」の向上。改革に取り組む中で失敗もあり、EC販売はうまくいきませんでした。

しかし、その経験からお客様が百貨店に求めているものは何か?ということがわかったといいます。それは従業員の「おもてなし」の精神だったそうです。

西武百貨店

2018年の6月から顧客データを活用した取り組みを開始しています。「One to Oneマーケティング」をMicrosoftの「パブリッククラウド Azure」と、ブレインパッドの「ダイナミックセグメンテーションexQuick」を使用。顧客データを利用して電子メールの送信、DMの発送、顧客分析などを実施しています。

実際にメール配信後に来店したお客様の購買割合が5%となるなど、一定の効果が得られているそうです。

東急百貨店

対顧客だけではなく、社内システムのIT化は必須です。東急百貨店では、「moconavi」というシステムを使って働き方改革を実現。全社員へのテレワークを推進しつつ、万全のセキュリティ体制を敷くなど改革を進めています。

新型コロナで受けた大打撃をどう挽回するか


ニュースでも取り上げられているように、大手百貨店も新型コロナウイルスの大打撃を受けています。

日本百貨店協会の発表によれば、3月1日から17日の百貨店売上高(40店が対象)が前年同期比で約40%も減少

またインバウンド客激減の影響はそのまま「免税売上高約80%減」と壊滅的な数字です。これはリーマン・ショックや東日本大震災のダメージを上回るもの。

店舗にお客さんが来なければ売り上げが立たない、ということ自体を変えていかなければならない局面に来ているのかもしれません。

通販サイトの物産展化やAIの外商員などできることはある

百貨店のIT企業化についてすでに触れましたが、大手百貨店の通販サイトはまだまだ改善の余地があるように思えます。

藤巻百貨店(https://fujimaki-select.com/)などの通販サイトと比較すると、ターゲットがあいまいで網羅的なこともあり、購買意欲があまり刺激されない設計になっているように感じます。

たとえば北海道展のようなドル箱展示会をネット上で展開するとか、AI外商員を置いて富裕層へのサービスを強化するとか、まだまだITやネット活用を進化させることができるのではないか。

海外にも行けず、お金を使う場所がない富裕層のストレスを買い物で発散してもらうためにも、危機的状況にあるいまのうちに次の一手を打つべきです。

Web戦略がハマればブランド力が生かせる

新型コロナウイルスの猛威でまだまだ苦境を強いられている百貨店ですが、Web戦略の専門家とタッグを組めば、そのブランド力がきっと生かされるはず。

なんといっても伝統と歴史、お客様との絆はいまだに強固なものがあります。

地方の百貨店が生き残るすべも、ネット社会にいかに順応していくか、どうすれば消費者が求めるサービスを提供できるか、
という課題をクリアすることで見えてくるのかもしれません。

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