メールによる情報漏洩リスクとは?実態と予防策を徹底解説
最終更新日:2025年06月11日

リモートワークやクラウドサービスの普及により、日々の業務でメールを使う頻度が飛躍的に増えています。それに伴い、宛先の誤入力や添付ファイルの送信ミス、マルウェア感染など、メールを起点とした情報漏えいリスクも高まっています。
ひとたび情報が外部に流出すれば、信用の失墜や法的責任、事業への深刻な影響を招く可能性もあります。
この記事では、実際に起きたインシデント事例を交えながら、メールに潜むリスクとその対策についてをわかりやすく解説します。
メールからの情報漏えいが起こる主な原因
ヒューマンエラーによる宛先ミス
頻繁に起こりやすいのが、ヒューマンエラーによる宛先の誤入力です。たとえば、名刺のアドレスを手入力する際のタイプミスや、アドレス帳から同姓の別人、似たドメインの相手を誤って選ぶといったケースが多く見られます。
メールソフトの「オートコンプリート機能(入力補完)」を過信し、確認を怠ることで、意図しない相手に送信してしまうケースも少なくありません。

誤った添付ファイルや暗号化の不備
誤ファイルの添付
送るべき資料とは異なるファイル、たとえば社外秘や他社の機密を含む資料を誤って添付してしまうケースがあります。A社宛の請求書を誤ってB社に送付してしまうといった誤りは、企業の信用を大きく損なう要因となります。ファイル名が似ていたり、複数のバージョンが存在していたりすると、こうしたミスが起こりやすくなります。
暗号化やパスワード通知の不備
機密情報を含むファイルは、暗号化が必須です。しかし、暗号化そのものを忘れてしまう、あるいはパスワードを本文に書いてしまうといった行為も、情報漏えいの一因になります。
誤送信が発生した場合も、ファイルが暗号化されていなければ、そのまま相手に情報が漏れてしまいます。仮にファイル自体が暗号化されていたとしても、同一メール内でパスワードを送っていた場合、暗号化の意味をなさなくなります。
標的型攻撃によるマルウェア感染
企業や人を狙い撃ちする「標的型攻撃」は、マルウェア感染の代表的な手口の一つです。攻撃者は事前にターゲットの業種や役職、過去のやりとりなどを調査し、それらを踏まえた信頼性の高い内容のメールを装って侵入を図ります。
特に近年は、ウイルスやトロイの木馬、ランサムウェアといった悪意あるソフトウェアが仕込まれたファイルを、自然な文面とともに送ってくるケースが増えています。AIを活用して文面の精度を高め、あたかも社内や取引先からのメールのように見せかける攻撃も確認されています。

メールアカウントへの不正アクセス
企業のシステムやサーバーの脆弱性を悪用したり、ブルートフォース攻撃や辞書攻撃によってパスワードを割り出して、メールシステムに侵入し情報を窃取する手口です。
また、リスト型攻撃と呼ばれる、他のサービスから漏洩したIDとパスワードの組み合わせを利用して不正ログインを試みる攻撃も増加しています。
クラウド・外部サービスとの連携ミス
近年利用が拡大しているオンラインストレージやクラウド型メールサービスにおいて、アクセス権限や共有設定のミスにより、意図せず広範囲のユーザーが機密情報や個人情報にアクセス可能な状態になってしまい、情報漏洩に繋がるケースがあります。
メールによる情報漏えいが企業に及ぼす深刻な影響

経済的損失
情報が漏えいすると、原因調査やシステム復旧、セキュリティ対策の強化、被害者への賠償対応など、多方面にわたる費用が発生します。
NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会の調査によれば、個人情報1件あたりの平均想定賠償額は約28,303円、1件のインシデント全体では平均6億3,767万円にのぼると報告されています(※)。
被害の規模が大きくなると、企業の経営基盤を揺るがすほどの巨額な支出につながるおそれがあります。加えて、広報対応やコールセンターの設置などにかかる間接費用、顧客離れや株価の下落などによる売上機会の損失も看過できません。
※参照元:NPO日本ネットワークセキュリティ協会 | 2018年 情報セキュリティインシデントに関する調査結果(https://www.jnsa.org/result/incident/data/2018incident_survey_sokuhou.pdf)
信用失墜とブランドイメージの低下
情報漏えいが発覚すると、顧客や取引先、株主、従業員など、あらゆる関係者からの信頼が急速に低下します。「情報管理がずさんな企業」という評価が定着すると、ブランドの回復には長い時間と大きなコストがかかることになります。
さらに近年では、ニュースサイトやSNSを通じて瞬く間に情報が拡散され、ネガティブな評判が広がるスピードも加速しています。不買運動の発生、人材確保の難航など、長期的な影響も想定されます。
法的責任と罰則
個人情報保護法では、要配慮個人情報や1,000人を超える個人情報の漏えいが生じた場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられています。
これに違反した場合や、安全管理措置の不備が認定された場合は、最大1億円の罰金が科される可能性もあります。
事業継続への支障と業務遅延
インシデント発生時には、原因調査や被害の拡大防止、システム復旧などに多大なリソースが割かれます。
必要に応じてネットワークを隔離したり、システムを一時停止したりする措置が取られることもあり、事業の中核を担う業務が停止する恐れがあります。
実際に起こったメール漏洩のインシデント事例
事例 | 発生年 | 内容 | 漏洩対象 | 件数 | 主な原因 |
---|---|---|---|---|---|
新潟県 | 2025年 | BCC→CC | 企業のメールアドレス | 89件 | 宛先入力ミス |
みずほ信託 | 2025年 | 外部委託先へ誤送信 | 顧客情報 | 約2,700件 | 添付ファイル誤送信 |
NTTデータ関西 | 2022年 | マルウェア感染 | 問い合わせメールアドレス | 2,312件 | 標的型攻撃 |
新潟県:CC誤入力によるアドレス漏えい
2025年1月、 新潟県において職員がイベント案内メールを約80社に送信した際、本来非表示にすべき宛先を誤ってCC欄に入力し送信してしまいました。
その結果、企業担当者など89件のメールアドレスが互いに見える形で流出しました。県は受信先企業へメール削除を依頼し再発防止策の徹底を表明しています。
参照元:新潟県HP | メール誤送信による情報漏えい事案の発生について(https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/sogyosuishin/johoroei.html)
みずほ信託銀行:顧客情報付きメールの誤送信
2025年4月、みずほ信託銀行で社内の従業員間でやり取りする予定だった顧客情報ファイル付きメールを誤って外部委託先の担当者にも送信してしまう事故が発生しました。
メールに添付されていたファイルには個人顧客2,472名と法人顧客246社の氏名(法人名)や社内管理番号、取引支店名等が含まれており、これらが外部に漏えいする事態となりました。
参照元:みずほ信託銀行株式会社 | お客さま情報の漏えいに関するお詫びとご報告について(https://www.mizuho-tb.co.jp/company/release/pdf/20250424_2release_jp.pdf)
NTTデータ関西:マルウェア感染によるアドレス流出
2022年7月、NTTデータ関西が自治体向けに提供する電子申請サービスのヘルプデスク用PCがEmotet(エモテット)マルウェアに感染し、サービス利用者のメールアドレス計2,312件が流出する事故がありました。
担当者が差出人を装った不審メールの添付ファイルを開封したことが原因でウイルス感染に至ったもので、感染端末から過去の問い合わせメール情報が外部に送信されてしまったとみられています。
参照元:株式会社NTTデータ関西 | 不審メール(なりすましメール) に関するお詫びと注意喚起について(https://www.nttdata-kansai.co.jp/news/details_00174.aspx)
自社のメール運用に潜むリスクを見つけるチェックリスト
日々のメール業務の中に、情報漏えいのリスクが潜んでいるかもしれません。以下のチェックリストで、自社のメール運用における対策状況を確認してみましょう。
項目 | 内容 | チェック |
---|---|---|
メール送信ポリシーの策定 | 社外宛メールで機密情報や個人情報を扱う際の社内ルールが明文化され、全社員に周知されていますか? | |
技術的な誤送信防止策 | 誤送信防止のためのシステム的な対策(宛先確認ダイアログや送信取消機能、添付ファイルの暗号化自動化など)を導入済みですか? | |
従業員教育・訓練 | メールの取り扱いに関するセキュリティ教育を定期的に実施し、誤送信防止の注意喚起やフィッシング対策訓練を行っていますか? | |
インシデント対応手順 | メール誤送信や情報漏えいが発覚した際の社内報告フローや対処手順(関係者への迅速な連絡、誤送信メールの削除依頼方法など)が整備されていますか? | |
メール環境のセキュリティ設定 | メールシステムにおいて多要素認証の有効化、外部ドメイン宛メールの警告表示、スパム・ウイルスフィルタの適用など必要なセキュリティ設定が適切に行われていますか? |
メール漏洩リスクを防ぐ具体的な対策
誤送信防止ツールの導入
メール送信ミスによる情報漏えいを防ぐためには、システム側で誤送信を抑止する仕組みを整えることが有効です。以下は代表的な対策例です。
- 送信前確認: メール送信ボタン押下後に、宛先(To, Cc, Bcc)、件名、本文、添付ファイルなどをポップアップ画面で再確認させる。
- 宛先チェック: 外部ドメイン宛の送信時に警告を表示し、「社外秘」など特定キーワードを含む場合は上長承認を必須とする。
- 添付ファイルチェック: 添付ファイルの自動暗号化を行い、パスワードポリシーを強制し、ファイルサイズの制限を設ける。
- 送信保留: 送信後一定時間(例:数分間)保留し、その間に送信取り消しを可能とする。
- BCC自動変換: ToやCcに多数の外部アドレスが設定されている場合、自動的にBCCに変換する。
Outlookの送信控え機能やGmailの送信取り消し機能も、基本的な対策として有効です。こうした仕組みを取り入れることで、人的ミスをシステムで補完し、情報漏えいのリスクを大幅に軽減できます。
社内外へ大量メールを送る部署では、配信システムに誤送信防止機能をまとめて組み込む方法もあります。詳しくは以下の記事からご確認ください。
メールフィルタリングシステムの活用
外部からの不正メールやマルウェア付きのメールを防ぐには、強力なフィルタリングシステムの導入が不可欠です。
- 迷惑メール・スパムフィルタ:
メールサーバーやゲートウェイで、スパムやフィッシング、マルウェアを検知し、自動で隔離または削除。フィルタの定義ファイルは常に最新に保つ。 - 送信ドメイン認証(SPF, DKIM, DMARC)の導入:
- SPF: 正当な送信元サーバーから送られているかを検証。
- DKIM: 電子署名を用いて、改ざんの有無を確認。
- DMARC: SPF・DKIMの結果に基づき、なりすましメールの対処をポリシー化し、レポートで可視化。
- 添付ファイル・URLスキャン:
受信メールの添付ファイルや本文中のリンクを、サンドボックス環境で自動スキャン。不正なファイルやサイトへの誘導を防止。
多要素認証の導入
IDとパスワードによる知識情報に加え、SMSで送信されるワンタイムコード、認証アプリ、生体認証(指紋、顔など)、物理的なセキュリティキーといった複数の認証要素を組み合わせることで、セキュリティを大幅に向上させます。たとえパスワードが漏洩しても、他の認証要素がなければ不正ログインを防ぐことができます。
社員向けセキュリティ研修の実施
技術的な対策に加え、従業員一人ひとりの意識向上も欠かせません。以下のような教育内容を定期的に実施することで、人的リスクの低減につながります。
- 情報セキュリティポリシーの理解と遵守
- フィッシングメールや標的型攻撃メールの見分け方と対処法
- マルウェア感染のリスクと予防法
- 安全なパスワード管理と使い回し防止
- インシデント発見時の社内報告フローの徹底
教育方法は、座学だけでなく、実際のインシデント事例の共有や、標的型メール攻撃を模した訓練メールを送信して従業員の対応を確認する実践的な訓練なども効果的です。入社時だけでなく、定期的に(例:年に1~2回)実施し、従業員の知識と意識を常に最新の状態に保つことが重要です。
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まとめ

メールは便利な一方で、誤送信やマルウェア感染など、情報漏えいのリスクを常に伴います。一度のミスが企業の信頼や経営に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
だからこそ、技術的な対策と社員教育を両立し、送信ルールや対応手順を明確にしておくことが大切です。日々のメール運用を見直すことが、情報漏えいを防ぐ最も有効な手段といえるでしょう。
本記事は、2025年5月時点の情報をもとに作成しています。掲載各社の情報・事例をはじめコンテンツ内容は、現時点で削除および変更されている可能性があります。あらかじめご了承ください。