ISMS取得の難易度は高い?準備から審査までの流れと実情

ISMS取得の難易度は高い?準備から審査までの流れと実情
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ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得が社内で検討され始めたものの、「取得の難易度って正直どうなんだろう?」と、疑問に思う担当者も多いのではないでしょうか。

この記事では、ISMS取得までのステップや必要な期間、準備でつまずきやすいポイント、費用の目安などをわかりやすく整理しました。自社にとって本当に必要なのか、建設的に検討するための判断材料としてご活用ください。

ISMS取得の全体像|ステップと必要な期間

ISMS(ISO 27001認証)の取得は、組織における情報セキュリティ管理体制を構築・運用し、第三者による審査を経て認証を受けるプロセスで進めます。
主に以下の5つのステップで構成されており、準備開始から認証取得までの期間は平均で6~12ヶ月程度が一般的な目安とされています。

  • 現状把握
    情報資産の洗い出しとISO 27001要求事項とのギャップ分析を行います。
  • 体制構築
    情報セキュリティ推進責任者の任命、セキュリティ方針・規程の策定、社内教育計画の立案を実施します。
  • リスク評価
    リスクアセスメントで脅威・脆弱性を抽出し、適切なリスク処理策を決定します。
  • 運用
    日常業務でのコントロール実施、内部監査、マネジメントレビューを通じて継続的な改善を図ります。
  • 審査
    審査機関への申請書類提出後、書類審査→現地審査→指摘対応を経て認証登録を完了させます。

準備から取得までにかかる平均期間

組織規模や既存体制、外部コンサル活用の有無によって前後しますが、以下を目安にスケジュールを組むと計画が立てやすくなります。

ステップ 期間目安
現状把握 1〜2ヶ月
体制構築 1〜2ヶ月
リスク評価 1〜2ヶ月
運用 2〜3ヶ月
審査 1〜3ヶ月

上記を合計すると6〜12ヶ月程度になりますが、各フェーズを並行して進めることで短縮も可能です。
まずは「現状把握」で自社のギャップを明確にし、余裕を持ったスケジュール設計を行いましょう。

ISMS取得が難しくなる原因とは?5つの要因を解説

ISMS取得の難易度は、組織ごとの準備状況やリソースによって大きく変わります。ここでは特に注目すべき5つの要因を解説します。

isms取得難易度を左右する5つの要因

要因①:現状の情報セキュリティ管理体制の成熟度

既存のセキュリティポリシー運用プロセスの整備状況が充実しているほど、ギャップ分析や規程策定にかかる工数が少なく、スムーズな導入が可能です。
一方で、体制が未整備の場合は、基盤構築に多くの時間と労力を要し、プロジェクト全体の負荷が増大します。

要因②:社内リソース(担当者・工数・予算)の確保

ISMS取得には、専任の担当者を配置できるか必要な工数と予算を確保できるかが重要なポイントとなります。
リソースが不足していると、スケジュールの遅延や取り組みの質の低下につながるおそれがあるため、あらかじめ経営層の理解と支援を得ておくことが不可欠です。

要因③:既存規程との整合性と整備工数

既に社内にある個人情報保護規程業務手順書などとの整合性も、取得難易度に影響します。
文書の改定履歴が多い場合、内容の精査や不要文書の統合・廃止に時間がかかることもあります。

要因④:教育・意識改革の実施状況

ISMSの運用定着には全社的な教育と啓発活動が欠かせません。
社員が新しいセキュリティルールを理解し、日常業務で実践できているかどうかが、内部監査や審査での指摘を避ける鍵となります。

要因⑤:外部支援(コンサル・ツール)の有無

専門コンサルタントの支援や、リスクアセスメントツール・文書管理システムなどの外部リソースの活用も、取得を円滑に進めるための重要な要素となります。
的確なサポートを受けることで、社内負担を抑えつつ、制度設計や運用の品質を高めることが可能になります。

ISMS取得に必要な体制と担当者の役割・工数

ISMS認証の取得を円滑に進めるには、明確な組織体制の整備と、適切なリソース配分が欠かせません。
ここでは、推奨される役割分担とともに、担当者が担う業務の実態や兼務によるリスクについて解説します。

推奨される体制

推奨される体制
  • 情報セキュリティ委員会
    経営層(CISOや関連役員など)が参加し、全社的な方針決定・予算配分・リスク管理プロセスの監督を担います。
  • ISMS責任者(情報セキュリティ管理者)
    ISO 27001要求事項の適合性を統括し、進捗・パフォーマンスをトップマネジメントへ報告する中核役割です。規格や法規制の理解、組織内調整力が求められます。
  • 各部門ISMS担当者
    自部門のリスクアセスメント参加、ルール遵守の指導、従業員教育、インシデント初動対応などを担う実務リーダーです。部門特有の業務内容とリスクへの深い理解が必要です。
  • 内部監査チーム
    ISO 27001および社内規程への適合性や運用の有効性を検証し、監査報告書を作成する専門チームです。客観的な視点と、監査技法に関する知識・スキルが必要です。

担当者にかかる業務量の実態と兼務リスク

ISMSプロジェクトでは、専任担当者ではなく他業務と兼任しているメンバーが多い場合、次のようなリスクが高まります。
スムーズな推進のためには、あらかじめ経営層の承認を得たうえで、一定の工数を確保できる体制を整えましょう。

  • 作業時間の不足
    通常業務と並行で進めると、ギャップ分析や文書作成・レビューに想定以上の時間が必要に。
  • 品質低下・遅延
    工数確保が甘いと、審査対応時に指摘事項への対応が後手に回り、承認取得までの期間が長引く恐れがあります。
  • 属人化
    特定メンバーにノウハウが集中すると、異動・退職時にプロジェクトが停滞するリスクがあります。

ISMS取得にかかるコストとその内訳

コスト内訳|外部審査費用・教育費・コンサル費・文書管理ツール等

内部コスト(人件費・教育研修費)

ISMS認証取得プロジェクトに従事する担当者の人件費が最も大きな割合を占めます。たとえば、2名を1年間専任とした場合、約700万円の人件費が発生します。
また、内部監査員養成研修や全社員向けの情報セキュリティ教育にも数十万~数百万円の費用が必要です。

外部審査費用

認証機関への申請料・書類審査費・現地審査費を含め、初回審査費用は約50万円~150万円が目安です。
有効期限3年の間には毎年1回の維持審査があり、その費用は初回の約1/3程度となります。

コンサルタント費用

自力での取得が難しい場合、専門コンサルタントを活用すると50万円~150万円程度の支援費用が発生します。
支援範囲や企業規模により変動しますが、プロセス全体の効率化・品質担保に役立ちます。

文書管理ツール・セキュリティ対策ツール導入費

リスクアセスメント支援ツールや文書管理システム、新規のセキュリティ対策機器・物理設備強化など、組織の規模や既存環境に応じて数十万~数百万円の投資が必要となる場合があります。

自力で取得するケース vs 外部コンサルを活用するケースの比較

以下の概算比較は、中小規模(従業員21~50名、ITサービス業)の例です。
活用するコンサルによっては、自力で取得するよりも内部工数や費用を圧縮できる可能性もあります。

費用項目 自力取得の場合 コンサル活用の場合 備考
内部人件費 約720万円 約72万円 コンサル利用で工数80%削減と仮定
コンサルタント費用 0円 50万円~150万円 支援範囲・企業規模により変動
審査費用 約76万円 約76万円 審査機関・適用範囲による
初期取得総費用 約796万円 約198万円~298万円 コンサルによる期間短縮・人件費圧縮効果を考慮
年間維持費用 定期審査費用(約25万円~)+内部工数 定期審査費用(約25万円~)+内部工数+コンサル費用 維持審査費は初回の1/3程度が目安

ISMS取得の難所はここだ!よくあるつまずきポイント

ISMS認証を目指すプロジェクトで多くの組織が直面するつまずきポイントを整理しました。ここで挙げるポイントを事前に把握し、適切な対策を講じることでスムーズな取得への一歩になります。

ISMS取得の難所

文書整備にかかる膨大な作業

ISO 27001では数十種類の規程・手順書・記録文書が必要です。情報資産マップやリスク処理計画、適用宣言書など、初稿作成だけでなくレビュー・改訂を含めると膨大な工数が発生します。
特に既存文書との整合性チェックやバージョン管理の仕組みを後回しにすると、最終段階で混乱を招きやすいため、早期にテンプレート化とドキュメント管理ルールの策定を進めましょう。

リスクアセスメントの理解と実行

リスクアセスメントは「脅威」「脆弱性」「影響度」を定量評価し、適切なリスク対応を決定するプロセスですが、手法や評価基準の選定で迷うケースが多いです。技術的なリスクと業務影響をどう掛け合わせるか関係部門のステークホルダーをどう巻き込むかが鍵となります。
初めて実施する場合は、ワークショップ形式で合意形成を図ると効率的です。

内部監査準備の要点と審査対応の重責

内部監査は第三者審査の予行演習とも言える重要フェーズですが、監査チェックリストの作成証拠資料の収集に時間を要します。
さらに、監査結果に基づく是正処置の計画・実行まで含めると、担当者への負荷が集中します。あらかじめ内部監査スケジュールを作り、担当者に対して事前説明会や模擬監査を実施しておくと、本番での混乱を防げます。

教育・意識付けの難しさ

ISMSは技術的対策だけでなく「人の行動変容」が成功のカギです。しかし全社員への教育計画を立てても、日常業務の合間に受講してもらうのは容易ではありません。
研修後のフォローや定期的なリマインダー、イントラネットでの周知活動などを組み合わせ、習熟度テストや簡易アンケートで理解度を可視化すると効果的です。

ISMS取得の難易度を下げるには?

ISMS認証取得の難易度は、準備の「手間」と「抜け漏れ」をいかに減らせるかで大きく変わります。以下の4つの打ち手を活用して、工数削減と品質担保を両立させましょう。

文書テンプレートやチェックリストの活用

ISO 27001要求事項に即したテンプレートを使うことで、文書作成の時間を大幅に削減できます。たとえば、以下のようなテンプレートを準備しておくと便利です。

  • 情報セキュリティ方針/規程テンプレート:条文ごとに必要項目を埋める形式で、抜け漏れを防止。
  • リスクアセスメント・リスク処理計画チェックリスト:リスク特定→評価→処理までのステップをチェック方式で進行。
  • 内部監査チェックリスト:ISO項目・自社規程対応状況をチェックする一覧表形式。

これらを社内共有フォルダやWikiに置き、レビュー&改訂のサイクルを回すことで、文書管理工数を抑えつつ品質を維持できます。

ISMS支援ツールの導入

リスクアセスメントや文書管理、是正処置の追跡などを一元管理できるツールを導入すると、手作業のミスや工数をさらに減らせます。

  • リスク管理プラットフォーム:脅威・脆弱性の登録から対応状況の見える化まで自動化。
  • ドキュメント管理システム:バージョン管理やアクセス権限設定を標準機能でサポート。
  • 教育管理ツール:研修計画の立案・受講履歴・理解度テストをオンラインで一括管理。

これらのツールを活用することで、Excelやメールベースの運用から解放され、プロジェクト全体の透明性とスピードが向上します。

外部コンサルの活用

専門コンサルタントを活用することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 短期間でのノウハウ導入:規格理解や審査対応の経験値をインハウスに蓄積。
  • 工数の圧縮:ギャップ分析や文書レビュー、内部監査サポートを委託し、自社メンバーの負荷を軽減。
  • 品質担保:審査機関との交渉や是正処置のフォローまで、合格率向上に直結。

ただし、支援範囲や成果物の明確化、費用対効果をあらかじめ契約書に盛り込むことで、不要な追加費用を防ぎましょう。

最初から全部やらなくてOK!スモールスタートで始める

組織全体を一度にカバーするのではなく、まずは対象範囲を限定して「試験運用→拡大」を図る方法も有効です。

  • 最初に運用する部署の選定:影響範囲が限定的な部署(例:管理部門や特定事業部)でまず運用。
  • フィードバックループの確立:初期運用で得られた課題を文書化し、テンプレートやプロセスに反映。
  • 段階的スコープ拡大:小規模導入の成功後、順次他部門へ適用範囲を広げ、最終的に全社取得を目指す。

このアプローチなら、初期投資とリソースを抑えつつ、早期に成果を示して経営層の信頼を獲得できます。

まとめ

ISMS取得は難易度が高いように思えるものの、組織成熟度・リソース・既存規程・教育体制・外部支援の5要因を押さえれば段階的に進められます。
文書テンプレートやチェックリスト、支援ツール、コンサル活用、小規模スタートを組み合わせ、取得達成を目指しましょう。

まずはギャップ分析で現状を可視化し、経営層の理解を得た上でプロジェクトをスタート。ひとつひとつのステップをクリアしながら、確かな成果を手に入れる達成感を味わってください。得られる学びは組織の財産です。安心安全な環境構築に向けて、一緒に一歩を踏み出しましょう!

【免責事項】
本記事は、2025年5月時点の情報をもとに作成しています。掲載各社の情報・事例をはじめコンテンツ内容は、現時点で削除および変更されている可能性があります。あらかじめご了承ください。
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