「在庫が足りない」「期限切れが見つかった」「看護師が備品探しに追われている」
こうした院内物流にまつわる問題は、日々の悩みのタネとなっているのではないでしょうか。
本来、医療スタッフは患者ケアに集中すべき存在です。しかし、医療材料の発注、棚卸、補充作業などに時間と手間が取られてしまう現状は、医療の質にも直結する重要な課題です。
そこで、注目されているのが「院内物流システム(SPDシステム)」です。この記事では、各社の院内物流システムの特徴を比較してご紹介します。
会社名 | サービスの特徴 |
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Medilia |
簡単に導入できて現場にすぐ定着!属人化しない管理体制を構築したいなら
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スズケン |
システムと人材を組み合わせたアウトソーシング型SPD |
Medical Stream |
使った物品を自動で記録し入力作業を削減 |
Medyus3 |
その場で読み取り登録!在庫と請求を一括更新 |
MASTY |
全国の拠点から安定供給!アウトソーシング型のSPD |
JoyPla® |
インターネット経由で導入も運用もかんたん |
ゼロサプライ |
複数病院の在庫を一画面で見える化 |
東亜システム |
請求漏れを自動チェックし、収入の取りこぼしを防ぐ |
Mr. SPD |
登録はカードを集めてスキャンするだけ |
Mediboard |
在庫・発注・契約書をひとつの画面で管理 |
院内物流管理システム(SPDシステム)とは?
SPDとは?供給・加工・分配を管理する仕組み
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SPDはSupply(供給)、Processing(加工)、Distribution(分配)の頭文字をとった略語です。その名の通り、医薬品や診療材料、手術器械から事務用品まで、あらゆる物品の調達、在庫管理、各部署への供給を一元的に管理することを目指します。
SPDの目的は、院内の物品管理を最適化し、病院経営の強さや柔軟性を高めることにあります。コンピューターシステムを活用することで、複雑で多くの作業が必要な物流業務を効率的に進めることができるようになります。
なぜSPDが広まったのか?導入の歴史と普及の現状
1990年代初頭、中央材料室の滅菌業務や物品供給を外部業者が担う形から導入が始まりました。特に2000年代以降は、医療材料費の削減や看護師の業務負担軽減を目的に、国公立病院や中〜大規模の民間病院を中心に普及が加速しました。
2020年代に入ると、働き方改革や医療安全の強化、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の文脈でも注目され、SPD導入は業務改善の中核施策として位置付けられています。現在では病院の約半数以上がSPDを何らかの形で導入*しており、特に大規模病院では、SPDなしには物品管理が成り立たないケースも増えています。
*参照元:独立行政法人福祉医療機構 | 2020年度(令和2年度)病院における医薬品・医療材料・医療消耗器具備品 の購入に関するアンケート結果について (https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/210310_No014.pdf)院内物流管理システムでできること
SPDの考え方を実現するために、実際の現場では院内物流管理(SPD)システムが使われています。
システムを活用することで、従来の手作業中心だった物品管理が、データに基づく正確で効率的な運用へと進化しています。
在庫・消費のリアルタイム管理
院内物流管理システムを使うと、院内のどこにどれだけの在庫があるのかがリアルタイムで把握できるようになります。
従来の物品管理では、定期的な棚卸しによって在庫状況を確認していましたが、この方法では在庫の動きをリアルタイムに追うことはできませんでした。
しかし、システム上で在庫情報を登録・管理することで、各部署での消費ペースも自動的に記録され、在庫が一定数を下回ったタイミングで自動的に発注がかかるなど、人手を介さずに安定した物品供給が可能になります。
このような仕組みによって、欠品のリスクを最小限に抑えるとともに、過剰在庫によるコストの発生も防ぐことができるのが大きな特徴です。
バーコード・RFIDによる正確な物品管理
院内物流管理システムの正確な管理を支えているのが、バーコードやRFID(無線通信によってタグ情報を読み取る技術)といった技術です。医療材料にはバーコードやRFIDタグがつけられており、入庫や移動、患者への使用のたびにスキャンするだけで、情報が自動的に記録されます。
単に「何が何個あるか」だけでなく、ロット番号や使用期限といった重要な情報まで正確に管理できるようになりました。
たとえばリコールがあった場合も、該当する物品がどこにどれだけあるかをすぐに特定できます。また、RFIDは一度に複数の物品を素早く読み取ることができ、さらなる業務の効率化にもつながっています。
データ連携と請求漏れ防止
現代の院内物流管理システムは、電子カルテや会計システムなど他の院内システムと連携できるのが特徴です。
最大のメリットは、患者に使った医療材料などの情報が自動で記録され、保険請求の漏れを防げる点です。
従来は手作業で伝票を書いたりカルテから情報を拾い出したりしていましたが、この作業が自動化され、人的ミスによる請求漏れのリスクが大きく減りました。
SPDシステムの進化がもたらす技術トレンドとその活用法
AIによる需要予測と在庫最適化
近年では、AIを活用した需要予測機能を備えた院内物流管理システムも増えています。
過去の消費履歴や季節ごとの変動、診療科の特性、手術の予定など、さまざまなデータをもとに将来の物品消費を高精度で予測することで、在庫の過不足を未然に防ぐ仕組みが整えられています。
必要な分だけを確実に確保しつつ、使いきれない在庫を抑える運用が可能になるため、保管スペースの節約やコストの削減にもつながります。 念のために、多めに確保していた在庫量を見直すことができ、より安心な在庫管理が実現します。
ダッシュボードによる「見える化」と分析機能
院内物流管理システムに蓄積されたデータは、リアルタイムでの在庫状況や消費傾向を可視化するだけでなく、より深い分析にも活用されています。
- 部署ごとの物品使用傾向やコストの把握
- 不動在庫や過剰在庫の抽出
- 市場価格と比較した購買価格の妥当性評価
- 医事会計システムと連携した請求漏れの検出
データに基づいた分析を通じて、院内物流管理システムは物流管理の枠を超え、病院全体の経営判断や業務改善を支える意思決定支援ツールとしての役割も担っています。
さらに、院内物流管理システムの機能や技術は日々進化しており、これからの病院経営や医療現場の在り方に大きな変革をもたらす可能性があります。
院内物流管理システムの導入メリット
院内物流管理システムの導入は、院内の業務を大きく効率化し、人的なミスや時間の無駄を減らす効果があります。
さらに、現場のスタッフが本来の業務に集中できるようになるため、医療サービスの質向上にもつながります。
人的ミスと時間ロスを削減
院内物流管理システムによって、これまで多くの手作業が必要だった業務が自動化されます。たとえば、棚卸しや発注書の作成、使用期限のチェック、物品の運搬といった作業がシステムによって効率化されます。
バーコードやRFIDでのスキャンによるデータ入力は、手書きや転記によるミスを大きく減らし、間違ったデータに基づくトラブルや余分な手戻りを防ぐことができます。
また、誰が担当しても同じ品質で業務を進められるようになるため、属人化のリスクも減ります。
医療従事者が本来業務に集中
院内物流管理システムが導入されることで、看護師などの専門スタッフが在庫確認や発注などの雑務から解放され、患者さんへのケアや説明、記録といった専門性の高い業務に時間を使えるようになります。
院内の貴重な人材を専門外の作業に使うことは、非効率な経営につながります。 院内物流管理システムの導入は、このような無駄をなくし、患者サービスの質やスタッフの満足度向上にも寄与します。
コスト削減と在庫圧縮
院内物流管理システムの最大の魅力は、在庫の最適化と購買の適正化によって、医療材料費を削減できる点です。過剰な「安心在庫」を見直し、データに基づいた適正在庫を維持することで、キャッシュフロー改善にもつながります。
また、在庫の有効活用により、期限切れによる廃棄ロスも削減されます。特に医療材料は高額なものも多いため、こうした無駄の排除は経営的に非常に大きな意味を持ちます。
自院に最適なシステムは?導入パターンと選定ポイント
「システム単体型」と「業務委託型」の違い
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システム単体型 | 業務委託型 | |
---|---|---|
運用主体 | 自院 | 委託業者 |
コスト | ランニングコスト低め | 委託費用が発生 |
ノウハウ蓄積 | あり | 院内では限定的 |
人材リソース | 必要 | 最小限で可 |
柔軟性 | 高い | 委託内容に依存 |
システム選定で失敗しないための4つのチェックポイント
院内物流管理システムの導入を検討するうえで、単に「どちらが良いか」ではなく、「自院の経営戦略や現場の状況にとって、どちらが現実的で効果的か」を見極めることが、SPD導入の成否を左右します。
判断に迷う場合は、複数のベンダーに相談し、提案を比較検討することをおすすめします。導入後に後悔しないためにも、丁寧な見極めが大切です。
1. 病院の規模(病床数・物品量)
まずは病院の規模に着目しましょう。病床数が多く、物品の取り扱い点数が多い病院では、物量に比例して業務の煩雑さも増すため、専門業者による業務委託型を検討する価値があります。
一方、100~300床程度の中小規模病院では、シンプルな運用でも十分に回せる可能性があり、自院で完結する「システム単体型」のほうが適していることもあります。
2. 既存システムとの連携
電子カルテや医事会計システムなど、既に運用しているシステムとの連携性も重要な判断材料です。
院内物流管理システムを導入しても、他のシステムと連携できなければ、二重入力やデータ整合性の問題が発生し、かえって業務の負担が増えることもあります。
事前に、自院が使っているシステムとの接続実績があるベンダーかどうかを確認しましょう。
3. 院内の人的リソース(担当者の有無・専門性)
SPDを自院で運用するには、専任の物流管理担当者やシステムの運用を任せられる人材が必要です。人員に余裕があり、現場の業務改善に前向きなスタッフがいれば、システム単体型を導入して自院にノウハウを蓄積していくのも良い選択です。
反対に、すでに人手が足りていない、または他業務で手一杯な状況であれば、業務委託型で外部に任せたほうが安定した運用につながります。
4. 費用対効果(初期コストとランニングコスト)
システム単体型は初期導入コストがかかるものの、運用後のランニングコストを比較的抑えられる傾向にあります。反対に、業務委託型は人件費やサービス費用が発生するため、継続的な支出が必要になります。
初期費用と継続的な費用、そして見込まれる効果(コスト削減、業務削減、人材育成など)をトータルで比較することが大切です。
院内物流管理システムに関するよくある質問
院内物流管理システムの導入や運用を検討していると、「本当に現場で使いこなせるのか?」「きちんと定着するのか?」といった不安の声が多く聞かれます。ここでは、実際によく寄せられる質問とその回答をわかりやすく解説します。
Q1. スタッフが新しいシステムを使いこなせるか不安です。
A:導入時の丁寧な研修と継続的なフォローがあれば、問題なく運用できます。
院内物流管理システムは一見難しそうに感じるかもしれませんが、操作自体は非常にシンプルに設計されています。多くの現場では、ハンディターミナルでバーコードを「ピッ」と読み取るだけで在庫管理が完了するなど、誰でも扱いやすい工夫がされています。
また、導入時にはベンダーによる操作説明会や実地研修が行われるほか、導入後も定期的なフォローや相談窓口が設けられるケースが一般的です。現場スタッフの「使いやすい」という声を反映しながら、運用にフィットする形で徐々に慣れていけるので、心配しすぎる必要はありません。
Q2. スタッフがスキャン作業を面倒がって使わなくなるのでは?
A:使うメリットが実感できれば、自然と定着します。
現場での「面倒くさい」「忙しくて後回しになりがち」といった声は、どの病院でも起こりうる課題です。しかし、それを防ぐポイントは、「システムを使うことで自分たちの仕事が楽になる」と感じてもらえるかどうかです。
「在庫が自動で補充される」「棚卸がすぐ終わる」といった実感が持てれば、スタッフの間で自然とシステム利用が習慣化されます。導入初期は少し根気がいりますが、管理者やリーダー層が積極的に声をかけ、活用メリットを伝えていくことが効果的です。
Q3. 導入当初に整えた物品データが、数年後には古くなって使えなくなってしまわないか心配です。
A:定期的なチェック体制と管理ルールの明確化で、データの鮮度は維持できます。
院内物流管理システムの精度を保つうえで欠かせないのが、物品マスタ(品名・単価・ロットなど)の更新です。「最初は正確でも、その後のメンテナンスが行き届かない」という事例は少なくありません。
ベンダーによっては、物品マスタを提供してくれるところもあり、製品の追加・更新作業を支援してくれる場合もあります。もし「自院だけで管理していくのは不安」という場合は、こうしたサポートがあるベンダーを選ぶことで、より安心して運用を続けることができるでしょう。
Q4. 委託業者に任せた場合、サービスの質が安定するか不安です。
A:事前に契約内容とサービス水準をしっかり確認することが大切です。
業務委託型SPDでは、外部の業者が物品管理を担うため、「ちゃんとやってくれるのか?」「トラブル対応は?」といった不安を感じる方も少なくありません。
委託契約を結ぶ際には、サービス水準(SLA)を明確にしておくことが大切です。たとえば、「欠品率は月0.1%以内」「緊急対応は30分以内」などの具体的な指標を契約書に盛り込んでおけば、万一の際も改善要求をしやすくなります。
また、導入後も定期的にレビュー会議を開き、現場の声を業者に伝えながら運用をブラッシュアップしていくことで、良好なパートナー関係を築くことができます。
まとめ
院内物流管理システムは、単なる「在庫管理ツール」ではありません。院内のすみずみにまで物品を行き渡らせ、スタッフの業務を支え、患者さんに安心と安全を届けるための、見えないインフラとして病院運営の根幹を支えています。
導入にあたっては不安や課題もあるかもしれませんが、それら一つひとつにしっかりとした解決策があります。自院の状況や体制に合わせたシステムや運用方法を選ぶことで、確実に成果を上げることができるはずです。
これからの病院運営をもっと前向きに、もっとスマートにするために、今こそ、自院に合った導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
- 免責事項
- 本記事は、2025年7月時点の情報をもとに作成しています。掲載各社の情報・事例をはじめコンテンツ内容は、現時点で削除および変更されている可能性があります。あらかじめご了承ください。