「このままじゃシステムが止まるかもしれない」そう感じながらも動けていない企業が増えています。
誰も全体を理解していない、技術者がいない、トラブル時に止められない――
システムの老朽化は、もはや「いつか対処すべき課題」ではなく、今まさに経営リスクとして顕在化しています。
経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」。保守切れ、ブラックボックス化、DXの遅れ。これらを先送りすれば、競争力を失うだけでなく、事業継続そのものが危ぶまれる可能性があります。
今回は、「今こそ動き出す」と決断された企業のために、課題別に選べる代表的なマイグレーションサービスを紹介し、最適なパートナー選びのヒントをお届けします。
マイグレーションサービス4選
COBOL人材不足に備えてシステム刷新したい
膨らむ保守費を削減するためAWS移行したい
規制が厳しい業界で確実に移行したい
日本ティーマックスソフト

特長
メインフレーム移行に特化した「Tmax OpenFrame」を主力とし、COBOLやPL/I資産をオープン環境へ移行可能。リホストで短期脱却も、Java変換によるクラウドネイティブ刷新も選べる柔軟性が強みです。人材不足が深刻なレガシー環境でも、豊富な自動変換機能で工数を大幅に削減。既存資産を最大限活かしつつ、将来のシステム基盤を効率的に構築できます。
ソフトロード

特長
独自のAI変換技術を活用し、COBOLやPL/Iなど古い言語からJava環境へ効率的に移行可能。従来のリライトに比べ、工期は半分から3分の2、コストも大幅に削減できます。仕様書がないブラックボックス化したシステムでも、AIと人のハイブリッドで刷新を実現。人材不足で保守が難しい現行環境を、より保守性の高いオープンシステムへスムーズに移行できる点が魅力です。
TOKAIコミュニケーションズ

特長
TOKAIコミュニケーションズは、AWSプレミアティアサービスパートナーとして公式認定を受けており、移行の専門性が高く評価されています。移行前には「TCO分析」や「コストシミュレーション」を行い、削減効果を明確に提示。さらに「6つのR」を活用し、予算や戦略に合わせた最適な移行方法を提案します。移行後も24時間365日の運用支援を提供し、安心してクラウド活用を進められる点が強みです。
SCSK

特長
SCSKは、AWS環境へのデータベース移行に特化したサービスを提供しています。特にOracleコンピテンシーを持ち、OracleからAWSマネージドサービスへの移行でライセンス費や運用コストを大幅に削減可能です。同種移行に加えて異種データベース間の移行にも対応しており、コスト削減とデータ活用を両立したい企業に適しています。
日立製作所

特長
規制が厳しい金融や公共分野など、システム停止や不具合が許されない業界では、何よりも移行の確実性が求められます。日立製作所は「4ステップ法」や「ALM連携」といった厳格なプロセスで移行を管理し、透明性とリスク低減を徹底。セコム損保の基幹システム移行をはじめ実績も豊富で、確実な移行を重視する企業に適しています。
キヤノンITソリューションズ

特長
金融や公共など、大規模かつ安定性が必須の業界で多数の実績を持つのがキヤノンITSです。アセスメントから保守・運用までワンストップで対応し、移行後の運用体制まで含めて安心を提供。30年以上、120件超の実績(※2025年8月時点)に裏打ちされた信頼性で、長期的なシステム運用を見据えた企業に適しています。
| 会社名 | サービスの特徴 |
|---|---|
FPTジャパンホールディングス |
止められない基幹システムを安全に移行!人材不足・計画遅延を回避
|
キヤノンITソリューションズ |
計画から運用まで一気通貫で、レガシーシステムの“資産継承”を支える |
TIS |
業務ロジックの自動変換で旧環境からJava環境へ安全迅速にリライト |
日立製作所 |
長年の実績と体系化されたプロセスで、大規模システムを確実に移行 |
SCSK |
AWSデータベース移行のスペシャリストとして、コスト削減とデータ活用を実現 |
NTTデータビジネスシステムズ |
既存資産を最大限に活用し、短期間・低コストでシステム刷新 |
TOKAIコミュニケーションズ |
AWSプレミアティアパートナーが、移行から365日運用まで支援 |
CIJ |
専用ツール開発で、複雑なシステム資産も例外なく移行可能に |
サイバーコム |
サポート終了したVB6資産を、安全かつ短期・低コストで.NETへ |
日本ティーマックスソフト |
メインフレーム脱却を多彩な選択肢で実現 |
ソフトロード |
独自のAI変換で短納期・低コストを実現 |
シーイーシー(CEC) |
独立系ならではの対応力で幅広くモダナイズ |
IBM Japan |
他社クラウドも視野に入れた柔軟な移行支援 |
NECソリューションイノベータ |
クラウド時代に合わせた柔軟なインテグレーション力が強み |
富士通Japan |
安心と信頼性を軸にした移行をトータルサポート |
システムズ |
難易度の高い移行も、分析とPoCで実現可能に |
アクセンチュア |
世界規模の知見と人材でIT移行を事業変革に変える |
マイグレーションサービスとは?
企業のIT環境は今、大きな転換期を迎えています。長年使い続けてきたシステムの老朽化や、新しい技術への対応の遅れが、ビジネスの成長を妨げる要因になっているからです。
この課題を解決する鍵となるのが「マイグレーションサービス」です。単なるシステムの入れ替えではなく、企業の貴重な資産を活かしながら、未来の成長基盤を築くための戦略的な取り組みとして、今多くの企業が注目しています。
マイグレーションの定義
マイグレーションとは、英語の「migration(移動・移転)」に由来する言葉で、IT分野では既存のシステム、データ、ソフトウェア、アプリケーションなどを、新しいコンピューティング環境へ移行するプロセス全般を指します。
ここで重要なのは、ゼロからシステムを再構築する「リプレース」とは異なる点です。現在稼働しているシステムのプログラムやデータといった資産を最大限に活用しながら、新しい環境へ移していくことが特徴となります。
移行の対象は幅広く、以下のような形態があります。
- データマイグレーション:古くなったデータベースから新しいものへデータを移す作業
- アプリケーションマイグレーション:オンプレミスのサーバーで動いているアプリケーションをクラウドへ移す作業
- クラウドマイグレーション:社内のITインフラ全体をクラウドへ移行する作業
このように、目的や規模に応じて様々な形態が存在し、企業のニーズに合わせて最適な方法を選択することができます。
2025年の崖問題とDX推進の必要性
経済産業省のDXレポートが警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題は、日本企業にとって避けては通れない課題となっています。このレポートでは、企業がレガシーシステムの刷新に踏み切れなかった場合、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性がある*と試算されました。
この「崖」が意味するのは、単なるシステムの老朽化だけではありません。主要なソフトウェアのサポート終了、旧技術に精通したIT人材の退職、そして急速に進化するデジタル技術との格差拡大など、複数のリスクが同時期に顕在化する転換点を指しているのです。
2025年8月を迎えた現在、当初懸念されたような「崖から落ちる」急激な経済損失は、幸いにも顕在化していません。多くの企業がDXの必要性を認識し、段階的な取り組みを進めてきた成果と言えるでしょう。
しかし、問題が解決したわけではありません。むしろ、より具体的で切迫した課題が浮き彫りになってきています。特に深刻なのは、SAP ERP(ECC6.0)のサポート終了問題です。2027年末までサポートが延長されたとはいえ、多くの企業がまだ移行を完了できていない状況にあります。さらに、レガシーシステムを理解している技術者の高齢化と退職が進み、システムの「ブラックボックス化」というリスクも日々高まっているのです。
つまり、2025年の崖は「乗り越えた」のではなく、「先送りされた」というのが実情なのかもしれません。企業には、この猶予期間を活かして、着実にマイグレーションを進めることが求められています。
*参照元:経済産業省|DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html)レガシーシステムが抱える課題
企業がマイグレーションを検討せざるを得ない状況には、レガシーシステムが抱える深刻な課題が潜んでいます。
多くのレガシーシステムは、メーカーのサポートが終了したハードウェアやソフトウェア上で稼働しています。セキュリティパッチが提供されなくなることで、サイバー攻撃に対する脆弱性が放置される極めて危険な状態になります。万が一、障害が発生してもメーカーの支援は期待できず、事業継続に深刻な影響を及ぼすリスクを抱えることになるでしょう。
技術者不足(Talent Shortage)の深刻化古い技術で構築されたシステムの開発・保守を担ってきた技術者の多くが高齢化し、次々と引退しています。一方で、若い世代の技術者は新しい技術を志向するため、レガシーシステムを維持するための人材確保は年々困難かつ高コストになっています。特定の担当者が退職した途端、誰もシステムの内部を把握できなくなるという事態も現実的な脅威となっています。
複雑化・ブラックボックス化の進行レガシーシステムは、数十年にわたる度重なる機能追加や改修の結果、その構造が極めて複雑化しています。多くの場合、十分なドキュメントも残されておらず、システムの全体像を正確に把握している人物は社内に誰一人いない「ブラックボックス」状態に陥っています。
このような状態では、軽微な修正でさえ予期せぬ不具合を引き起こすリスクが高く、ビジネス環境の変化に応じた迅速なシステム改修はほぼ不可能となります。この積み重なった「技術的負債」が、企業の成長とイノベーションを阻害する大きな要因となっているのです。
これらの課題は、もはや単なるIT部門の問題ではありません。企業の存続そのものを揺るがしかねない経営上のリスクであり、マイグレーションが戦術的なITタスクから、企業全体の未来を左右する戦略的必須事項へと変わった理由がここにあります。
4つの主要なマイグレーション手法と選択方法
マイグレーションを成功させるためには、企業のビジネス目標や既存システムの状況に応じて、最適な手法を選択することが重要です。ここでは、代表的な4つの手法について、それぞれの特徴と適用場面を詳しく解説していきます。
リホスト・リプラットフォーム型マイグレーション
既存のアプリケーション資産(プログラムのロジック)を極力変更せず、稼働するIT基盤(プラットフォーム)のみを新しくするアプローチです。迅速かつ低リスクで移行できるため、ハードウェアの保守切れといった喫緊の課題に対応する際に有効な手法となります。
ストレートコンバージョンによる資産活用
リホストは「リフト&シフト」とも呼ばれ、アプリケーションやデータをほぼそのまま新しいインフラ(例:オンプレミスサーバーからクラウドのIaaS)へ移行する手法です。
この中で特に重要な技術が「ストレートコンバージョン」です。COBOLプログラムやJCL(ジョブ制御言語)といった既存資産を、自動変換ツールを用いて新しいオープン系システムで動作するように変換します。手作業を最小限に抑えることで、品質の均一化と移行期間の短縮を実現できるのが大きな特徴です。
短期間・低リスクでの移行実現
リホストの最大のメリットは、長年培われてきたビジネスロジックを変更しないため、業務への影響を最小限に抑えつつ、短期間・低コストで移行を完了できる点にあります。
一方、「リプラットフォーム」は「リフト&ティンカー」とも呼ばれ、リホストをもう一歩進めた手法となります。アプリケーションのコアな構造は維持しつつ、データベースをクラウドのマネージドサービス(例:Amazon RDS)に置き換えるなど、クラウド環境のメリットを一部活用するための最適化を行うことができます。
データ・アプリケーションマイグレーション
システム全体ではなく、特定のデータやアプリケーションに焦点を当てて移行を行う手法です。必要な部分だけを効率的に移行できるため、段階的な移行計画を立てやすいという利点があります。
データマイグレーションの特徴と適用場面
データマイグレーションは、特定のデータをあるストレージやデータベースから別のものへ移動させるプロセスです。例えば、メインフレーム上のデータベースからオープン系のSQLデータベースへデータを移行するといったケースが該当します。
あらゆるマイグレーションプロジェクトにおいて不可欠な要素であり、移行先システムでデータが正しく利用できるよう、データの整合性やセキュリティを確保しながら、適切なフォーマットに変換することが成功の鍵となります。
アプリケーションマイグレーションの実施方法
アプリケーションマイグレーションは、特定のアプリケーションプログラムを新しい実行環境へ移すことを指します。前述のリホストのように単純にインフラを移し替える場合もあれば、より高度な手法として、以下のようなアプローチも含まれます。
- リライト:プログラム言語自体を書き換える(例:COBOLからJavaへ)
- リファクタリング:アーキテクチャを全面的に見直す(例:StrutsからSpring MVCへ)
クラウドマイグレーション
オンプレミス環境で運用してきたシステムやデータを、クラウドコンピューティング環境へ移行するアプローチです。コスト削減、スケーラビリティの向上、運用負荷の軽減といった多くのメリットから、現代のマイグレーションにおける主流となっています。
オンプレミスからクラウドへの移行パターン
クラウドへの移行戦略は、AWSなどが提唱する「7つのR」と呼ばれるフレームワークで整理されることが多く、企業の目的や状況に応じた多様な選択肢を提供します。
| 移行パターン | 内容 | 適用場面 |
|---|---|---|
| リホスト(Rehost) | そのままクラウドへ移行 | 迅速な移行が必要な場合 |
| リプラットフォーム(Replatform) | 部分的に最適化して移行 | クラウドメリットを活用したい場合 |
| リパーチェス(Repurchase) | SaaS製品を新たに導入 | 既存システムを廃止して刷新する場合 |
| リファクタリング(Refactor) | クラウドネイティブに再構築 | 最大限の効果を得たい場合 |
| リロケート(Relocate) | VMwareベースの環境をそのまま移行 | VMware環境をクラウドで継続利用したい場合 |
| リテイン(Retain) | 現状のまま維持 | 移行の必要性が低い、または将来移行予定の場合 |
| リタイア(Retire) | システムを廃止 | 不要になったシステムを削除する場合 |
AWSやAzureへの移行サービス活用
主要なクラウドプロバイダーは、移行プロセスを円滑化・自動化するための専門サービスを提供しています。
AWSには、サーバーをリフト&シフトするための「AWS Application Migration Service (AWS MGN)」や、データベース移行を支援する「AWS Database Migration Service (AWS DMS)」などがあります。Microsoft Azureも同様のサービスを提供しており、これらを活用することで、複雑な移行作業のリスクを大幅に低減できます。
レガシーマイグレーション
メインフレームに代表されるような、独自技術で構築された旧式の「レガシーシステム」から、LinuxやWindowsサーバー、クラウドといった業界標準技術に基づく「オープンシステム」へと移行することを特に指します。
メインフレームからオープンシステムへの移行
メインフレームは高い信頼性を誇る一方、運用コストの高さや技術者の不足が深刻な課題となっています。オープンシステムへ移行することで、高額なライセンス費用や保守費用を削減し、特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」の状態から脱却することが可能になります。
COBOLなど旧言語資産の変換と活用
レガシーマイグレーションにおける最大の挑戦の一つが、長年蓄積されてきたCOBOLなどのプログラム資産の扱いです。これらは企業のビジネスロジックそのものであり、貴重な知的財産となっています。
マイグレーションサービスでは、これらの資産を捨て去るのではなく、高度な変換ツールを用いてJavaや現代的なCOBOLなど、オープンな環境で実行可能な言語に変換します。これにより、ビジネスの根幹をなすロジックを継承しながら、システムの近代化を実現できるのです。
これらの手法は、どれか一つだけが正解というわけではありません。多くの場合、これらを組み合わせて段階的に移行を進めることになります。自社の課題と目指すべき姿を明確にし、最適な戦略を選択することが重要です。
マイグレーションサービス利用で得られる5つのメリット
マイグレーションは、古いシステムを新しくするだけの技術的な作業ではありません。正しく実行することで、コスト削減からビジネスの成長加速まで、企業経営に直結する多岐にわたるメリットをもたらします。ここでは、具体的な5つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
コスト削減効果
最も直接的で分かりやすいメリットが、ITコストの最適化です。多くの企業が、マイグレーションによって大幅なコスト削減を実現しています。
ランニングコストの削減
高価なメインフレームの保守費用や、老朽化したオンプレミスサーバーの運用管理費は、企業のIT予算を圧迫する大きな要因となっています。オープンシステムやクラウド環境へ移行することで、これらのランニングコストを大幅に削減できます。
ハードウェア更新費用の抑制
特にクラウドマイグレーションの場合、自社で物理的なサーバーやネットワーク機器を所有する必要がなくなります。
数年ごとに発生する高額なハードウェアの購入・更新費用(CapEx)が不要となり、IT投資をより柔軟で予測可能な運用費用へと転換できるのです。
業務効率とシステム品質の向上
既存の資産を活かしつつ、最新技術の恩恵を受けることで、業務効率と品質の両方を高めることが可能になります。
既存資産を活かした機能維持
リホストなどの手法では、長年にわたって改善が繰り返されてきた業務ロジックや、従業員が使い慣れたユーザーインターフェースをそのまま継承できます。
移行後も業務の継続性を保ち、新しいシステムのための大規模な再教育コストを最小限に抑えることができます。
最新技術による処理速度向上
最新のハードウェアや最適化されたプラットフォームへ移行することで、システムの処理速度は格段に向上します。専門的なマイグレーションサービスでは、自動化されたツールと厳格なテストプロセスが用いられます。例えば、新旧システムで同じ処理を行い、出力結果を比較検証することで品質を担保し、本番稼働後の不具合ゼロを実現した事例もあります。
セキュリティリスクの回避
レガシーシステムを使い続けることは、重大なセキュリティリスクを放置することと同義です。マイグレーションは、このリスクを根本から解消する最も効果的な手段となります。
サポート切れによる脆弱性の解消
メーカーのサポートが終了したOSやミドルウェアは、新たな脆弱性が発見されても修正パッチが提供されません。これは、サイバー攻撃者から見れば格好の標的となってしまいます。最新のサポートされているプラットフォームへ移行することで、これらの既知の脆弱性を一掃し、安全な事業基盤を再構築できます。
最新のセキュリティ基準への適合
クラウド環境をはじめとする最新のプラットフォームは、今日の高度な脅威を前提としたセキュリティ機能が標準で組み込まれています。マイグレーションにより、堅牢なアクセス制御、データの暗号化、常時監視といった、旧来のシステムでは実現が難しかった高度なセキュリティ対策の恩恵を受けることができます。
技術者不足問題の解決
企業の持続可能性を脅かすIT人材の枯渇問題に対しても、マイグレーションは有効な処方箋となります。
レガシー技術者の高齢化対策
COBOLやメインフレームの専門技術者の高齢化・引退は、もはや避けられない現実です。システムをJavaやPythonといったより汎用的な言語や、標準化されたクラウドプラットフォームへ移行することで、門戸が広がり、若手から中堅まで幅広い層の技術者を確保しやすくなります。 特定の個人への依存から脱却し、システムの安定的な維持・発展が可能になります。
最新技術者による保守運用の実現
マイグレーションの過程で、複雑化したシステム構造を整理し、ドキュメントを整備することで、システムの属人化(ブラックボックス化)を解消できます。システムがシンプルで分かりやすくなれば、新しい担当者でも保守や機能改修が容易になり、組織全体の技術力向上にも繋がります。
ビジネス変化への柔軟な対応
マイグレーションの最終的な目的は、ITシステムをコストセンターから、ビジネスの成長を牽引する「価値創造エンジン」へと変革することです。
DX推進による競争力強化
硬直的なレガシーシステムでは、市場や顧客ニーズの変化に迅速に対応することは困難です。一方、クラウドを基盤とするような最新のシステムは、俊敏性(アジリティ)を前提に設計されています。
API連携による外部サービスとの柔軟な接続、データのリアルタイム分析、新サービスの迅速な開発・投入などが容易になり、企業のDXを加速させ、新たな競争優位性を生み出すことができます。
システムの拡張性・柔軟性の向上
特にクラウド環境は、ビジネスの成長や需要の変動に応じて、コンピュータリソースを瞬時に拡張・縮小できる「スケーラビリティ」に優れています。これにより、突発的なアクセス集中にも耐えうる安定性を確保しつつ、平常時はリソースを抑えてコストを最適化するなど、オンプレミス環境では困難だった効率的で柔軟なシステム運用が実現します。
マイグレーション実施の4ステップと必要期間
マイグレーションプロジェクトは、その規模や複雑さによって期間が大きく変動します。小規模なものでは数ヶ月、大規模な基幹システムの刷新となると数年を要することもあります。しかし、どのようなプロジェクトであっても、成功のためには体系化されたプロセスを着実に踏むことが不可欠です。ここでは、標準的な4つのフェーズとその期間の目安を紹介します。
アセスメント・移行性診断フェーズ(1-2ヶ月)
プロジェクトの成否を左右する最も重要な初期段階です。ここでの調査・分析の精度が、後続のすべてのフェーズの土台となります。
現状システムの調査と評価
まず、移行対象となる現行システムの詳細な調査から始めます。以下の項目について網羅的に洗い出し、資産として棚卸しを行います。
- アプリケーションのソースコード
- データ構造
- システム間の依存関係
- 利用されているミドルウェア
- システムが支えている業務プロセス
この「現状把握」が曖昧なままでは、正確な計画は立てられません。徹底的な調査が成功への第一歩となります。
移行可能性とリスク分析
調査結果に基づき、技術的な移行の実現可能性を評価します。サポート対象外のソフトウェアの有無、複雑なデータ連携、品質の低いデータなど、移行の障壁となりうる課題を特定し、潜在的なリスクを分析します。
多くの専門ベンダーは、このフェーズに特化した「移行性診断サービス」や「アセスメントサービス」を提供しており、客観的な評価を得るために活用することが有効です。
設計・移行方式決定フェーズ(1-3ヶ月)
アセスメントの結果を受けて、具体的な移行計画を策定するフェーズです。
移行方式の設計と選定
ビジネス目標、予算、期間といった制約条件と、アセスメントで明らかになった技術的課題を総合的に勘案し、最適な移行方式(リホスト、リプラットフォーム、リビルドなど)を選定します。そして、移行先となる新しい環境のアーキテクチャを詳細に設計していきます。
移行計画とロードマップ策定
プロジェクト全体のスコープ、詳細なスケジュール、必要な人員とスキル、テスト戦略、関係者へのコミュニケーション計画などを盛り込んだ、具体的な移行計画書を作成します。
特に大規模なシステムの場合は、一度にすべてを移行するのではなく、業務への影響が少ないサブシステムから着手するなど、優先順位を付けた段階的なロードマップを策定することが一般的です。
パイロット移行・検証フェーズ(2-4ヶ月)
本格的な移行作業に入る前に、小規模な範囲で試験的に移行を行い、計画の妥当性を検証するフェーズです。
小規模での試験移行実施
システム全体を移行するリスクを避けるため、まず代表的な機能やデータの一部を抽出し、PoC(Proof of Concept:概念実証)やパイロットテストとして試験的に移行を実施します。
移行方式の検証と調整
このパイロット移行を通じて、選定した移行方式や変換ツールが想定通りに機能するか、移行後の性能は要件を満たすかといった技術的な課題を実地で検証します。
ここで予期せぬ問題が発見されれば、その原因を分析し、本番移行の計画やツールにフィードバックして調整を行います。このフェーズを丁寧に行うことが、本番移行での手戻りや失敗を防ぐための鍵となります。
本番移行・運用開始フェーズ(3-6ヶ月)
プロジェクトの最終段階として、すべての資産を本番環境へ移行し、新しいシステムの運用を開始します。
全資産の本番移行実施
パイロット移行で得られた知見を反映した最終的な計画に基づき、すべてのデータとアプリケーションを新しい本番環境へ移行します。 業務への影響を最小限に抑えるため、この作業は週末や連休など、システムの利用が少ない時間帯に計画的なサービス停止を伴って実施されることが一般的です。
並行稼働と運用引き継ぎ
リスクをさらに低減するため、移行後しばらくの間、新旧両方のシステムを並行して稼働させる場合があります。新システムの動作が旧システムと完全に同等であることを実データで比較検証できます。
新システムの安定稼働が確認された後、旧システムを完全に停止し、運用保守チームへ正式に業務を引き継いでプロジェクトは完了となります。
成功するマイグレーションは、実行そのものよりも、事前の計画や検証に多くの時間を費やします。特にアセスメントとパイロット移行は、プロジェクト全体の失敗リスクに対する最も効果的な「保険」と考えるべきです。この初期段階への投資を惜しまないことが、最終的にスムーズで予算通りのプロジェクト完遂に繋がるのです。
移行リスクを最小化する3つの対策方法
マイグレーションは複雑で大規模なプロジェクトであり、潜在的なリスクを伴います。しかし、適切な対策を講じることで、これらのリスクは管理・最小化することが可能です。ここでは、成功率を高めるための3つの重要なアプローチを紹介します。
自動化ツールによる品質確保
人的な作業に依存するプロセスは、ミスや品質のばらつきを生む温床となります。これを排除し、品質を確保するためには、自動化の徹底が不可欠です。
手作業削減による人的ミスの防止
プログラムのコード変換や大量のデータ移行を手作業で行うと、膨大な時間がかかるだけでなく、ヒューマンエラーが避けられません。
特に「ストレートコンバージョン」などで用いられる高度な自動変換ツールを活用することで、作業の速度と正確性を飛躍的に向上させ、高品質で均一な成果物を得ることができます。
再変換可能な環境構築
ツールベースの変換がもたらす大きな利点の一つに、「再変換可能性」があります。もし変換ロジックに不具合が見つかった場合、手作業であれば影響のあるプログラムを一つ一つ修正する必要がありますが、ツールベースであれば、ツール自体を修正して影響範囲の全資産を再度一括で変換できます。
近年では、生成AIを活用してブラックボックス化したシステムの仕様を解析・ドキュメント化し、移行作業の最大70%を自動化するような先進的なツールも登場しています。
段階的移行とテスト戦略
大規模なシステムを一度に切り替える「ビッグバン移行」は、成功すれば短期間で済みますが、失敗した際の影響が甚大です。リスクを分散し、制御するためには、段階的なアプローチが有効です。
パイロット移行による検証
本番移行に先立ち、小規模な範囲でパイロット移行を実施することは、リスク管理の観点から極めて重要です。ステークホルダーへの影響が少ない段階で技術的な課題を洗い出し、解決策を確立することができます。
並行稼働期間の設定
最も安全性の高い移行方式が、一定期間、新旧システムを同時に稼働させる「並行稼働」です。両システムの処理結果を直接比較できるため、新システムの正当性を確実に検証できます。
万が一、新システムに問題が発生しても、業務を止めることなく旧システムで継続できるため、事業継続性の観点から大きな安心材料となります。一時的に運用コストは二重にかかりますが、ミッションクリティカルなシステムにおいては、そのコストに見合うだけの高い安全性を確保できます。
専門家による移行支援の活用
マイグレーションは、多くの企業にとって頻繁に経験する業務ではありません。そのため、専門的な知見と経験を持つ外部パートナーの活用が、プロジェクト成功の鍵を握ります。
経験豊富なマイグレーション専門チームの起用
マイグレーションには、レガシー技術と最新技術の両方に精通し、さらには特有のプロジェクトマネジメント手法を熟知した、高度に専門的なスキルが求められます。社内人材だけでこれを賄うのは非常に困難です。
数百件以上の移行実績を持つような専門ベンダーと協業することで、過去の成功・失敗事例から得られた貴重なノウハウやベストプラクティスをプロジェクトに導入し、予期せぬトラブルを未然に防ぐことができます。
24時間365日のサポート体制確保
本番環境への切り替え作業は、多くの場合、業務時間外の深夜や休日に行われます。このクリティカルなタイミングで万が一の事態が発生した際に、迅速に対応できるサポート体制は不可欠です。
移行中および移行直後の安定稼働を確実にするため、24時間365日対応可能な専門家のサポート体制を確保しておくことが重要です。
これらのリスク対策は、単独で機能するものではなく、相互に補完し合う関係にあります。経験豊富な専門家(人)は、最適な自動化ツール(技術)を選定し、堅牢な段階的移行計画(プロセス)を設計することができます。この3つの要素をバランス良く組み合わせることが、複雑なマイグレーションプロジェクトを成功に導くための王道と言えるでしょう。
マイグレーションサービスの費用相場と選び方のポイント
マイグレーションを検討する上で、費用とパートナーとなるサービス提供企業の選定は、経営層にとって最も関心の高い事項の一つです。ここでは、具体的な費用感と、失敗しないためのベンダー選定の基準について解説します。
規模別の費用目安
マイグレーションにかかる費用は、対象システムの規模、複雑さ、データの量、そして選択する移行方式によって大きく変動します。あくまでキャククル編集チームの調査による目安ですが、システム開発の費用相場から以下のような規模感を想定できます。
中小規模システム:500万円~2000万円
特定の部門で利用されている業務アプリケーションや、比較的小規模なWebシステムなどがこの範囲に該当します。例えば、営業部門だけで使用している顧客管理システムや、社内の情報共有システムなどが含まれます。
大規模システム:2000万円~1億円以上
全社的な基幹システム(ERP)の刷新や、複雑なメインフレームからのマイグレーションなどは、数千万円から1億円を超える大規模な投資となることが珍しくありません。
ただし、これはあくまでシステム開発全体を含む場合の相場です。単純なサーバーのクラウド移行など、インフラのみを対象とする場合は、初期費用数十万円から対応可能なサービスも存在します。
正確な費用を把握するためには、複数のベンダーから見積もりを取得し、その内訳を精査することが不可欠です。
サービス提供企業の選び方ポイント
マイグレーションのパートナー選定は、単なる価格比較に留まってはなりません。プロジェクトを成功に導くための、より本質的な基準で評価する必要があります。
実績と専門性(メインフレーム経験、移行実績120件以上など)
最も重要な選定基準は、信頼できる実績と、自社の課題領域に合致した専門性です。特に、自社と同じ業界での成功事例や、移行対象となるレガシー技術(例:特定のメインフレーム、4GL言語など)に関する深い知見を持っているかは必ず確認すべきです。
例えば、120件以上といった具体的な移行実績数は、その企業が多様なプロジェクトを通じてノウハウを蓄積していることの強力な証左となります。また、こちらの課題を深く理解し、的確な解決策を提示できる「提案力」も、その企業の専門性を測る重要な指標です。
サポート体制(24時間365日対応の有無)
マイグレーションは、システムを移行して終わりではありません。移行後の安定稼働と、新環境での継続的な改善を支えるサポート体制が不可欠です。
特に基幹システムの場合、万が一の障害に備え、24時間365日のサポートが提供されるかは重要な確認項目です。サービスレベルアグリーメント(SLA)の内容を事前に確認し、障害発生時の報告体制やエスカレーションプロセスが明確に定義されているかを見極めましょう。
ベンダー選定の際には、「最も安い見積もりはどこか」という問いから、「どのパートナーが最も高い確率でプロジェクトを成功に導いてくれるか」という問いへと視点を転換することが重要です。
安価であっても経験の浅いベンダーに依頼した結果、プロジェクトが遅延・失敗し、結果的に当初の予算を大幅に超える損害を被るケースは少なくありません。マイグレーションの真のコストとは、ベンダーに支払う費用だけでなく、プロジェクト失敗による事業機会の損失や信用の失墜といったリスクも含まれるのです。
したがって、価格以上に、リスクを確実に低減してくれる「経験」という無形の価値を最優先で評価すべきでしょう。
マイグレーション成功事例から学ぶ導入効果
理論や計画ももちろん重要ですが、ここからは実際の成功事例からマイグレーションの効果を見ていきましょう。
製造業・金融業での導入実績
多くのレガシーシステムが稼働する製造業や金融業では、マイグレーションが喫緊の課題となっており、数多くの成功事例が報告されています。
沖縄電力:短期間・低コストでのオープン化成功
沖縄電力株式会社は、長年の懸案であったメインフレームで稼働する業務システムのオープン化に成功しました。幾度となく見送られてきたこの難易度の高いプロジェクトを、専門的なマイグレーションサービスを活用することで、短期間かつ低コストでWindows Server環境への移行を実現しています。
硬直化したIT基盤から脱却し、将来のDX推進に向けた大きな一歩を踏み出すことができました。
引用元:キヤノンITソリューションズ株式会社HP (https://www.canon-its.co.jp/corporate/info/2022/info-0217)
YKK AP:大規模システムの安定運用実現
大手建材メーカーであるYKK AP株式会社は、本格的なDXへの第一歩として、大規模かつミッションクリティカルな基幹システムのリホスト方式によるマイグレーションを実施しました。
既存のビジネスロジックを維持しながら最新のプラットフォームへ移行することで、システムの安定運用を実現し、事業継続のリスクを大幅に低減させることに成功しています。
引用元:ITLeaders事例ニュース (https://it.impress.co.jp/articles/-/25465)
その他にも、金融機関がCOBOLで構築されたシステムをリホストして安定稼働を実現した事例や、製造業が保守切れの迫るシステムを短期間で移行した事例など、マイグレーションが企業の根幹を支えるシステムを未来へ繋ぐ重要な役割を果たしていることが分かります。
マイグレーションサービスのまとめ
ここまで、マイグレーションサービスの重要性と具体的な導入メリットについて詳しく見てきました。レガシーシステムの課題は、もはや「いつか解決すべき問題」ではなく、企業の成長と競争力を左右する「今すぐ取り組むべき経営課題」となっています。
確かに、長年使い続けてきたシステムを移行することには不安もあるでしょう。しかし、適切なマイグレーションサービスを活用することで、既存の貴重な資産を活かしながら、最新技術の恩恵を受けることができます。コスト削減、セキュリティ強化、業務効率の向上など、得られるメリットは計り知れません。
特に重要なのは、豊富な実績と専門性を持つパートナーを選ぶことです。単なる技術的な作業ではなく、企業の未来を共に創造する戦略的なプロジェクトとして、信頼できるマイグレーションサービスを選択することが成功への第一歩となります。
この記事でご紹介した選定ポイントを参考に、貴社に最適なマイグレーションサービス選びにお役立てください。
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- 本記事は、2025年8月時点の情報をもとに作成しています。掲載各社の情報・事例をはじめコンテンツ内容は、現時点で削除および変更されている可能性があります。あらかじめご了承ください。

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