バーティカルSaaSを導入すべき業種とは?ホリゾンタルSaaSとの違いも解説
最終更新日:2025年07月23日
クラウドサービスの活用が当たり前になった今、特定の業界や業種ごとに開発された「バーティカルSaaS」が注目されています。
しかし、「業界特化型だからこそ何が違うのか」「どんなメリットやリスクがあるのか」まで具体的にイメージできない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、バーティカルSaaSの特徴やホリゾンタルSaaSとの違い、実際の導入事例、そしてメリット・注意点まで、導入を検討されている企業担当者様の視点で分かりやすく解説します。
自社の業務改革やDX推進を加速させたい方は、ぜひ内容をご確認いただき、自社の意思決定にお役立てください。
バーティカルSaaSの基本をおさらい
業界ごとに特有の業務や課題を抱える現代、クラウドサービスの活用は企業経営に欠かせないものとなりました。中でも「バーティカルSaaS」は、従来の汎用的なクラウドサービス(ホリゾンタルSaaS)とは異なり、特定業界の現場やニーズに徹底的に寄り添うことに特徴があります。
ここでは、まずバーティカルSaaSとはどのようなものか、ホリゾンタルSaaSとの違いを交えて整理します。

バーティカルSaaSとは何か?
バーティカルSaaSは、医療や建設、介護、農業、不動産など、特定の業界に特化して設計されたクラウド型のソフトウェアサービスを指します。
このサービスは、業界特有の業務プロセスや用語、商習慣、法規制などをしっかりと反映した上で、「現場の実情に合ったかゆいところに手が届く」ソリューションを提供します。
たとえば、医療分野ならレセプト業務や電子カルテ、建設分野なら現場写真管理や検査記録、介護分野では複雑な保険請求処理など、従来の汎用的なITツールでは対応できなかった部分を根本から解決できる点が特徴です。
ホリゾンタルSaaSとの違い

ホリゾンタルSaaSとの違いを簡単に説明
ホリゾンタルSaaSは、会計や人事、メール、ファイル共有といった業界を問わず幅広く使える汎用型サービスです。例えばGmailやSlackなど、多くの企業が業種を超えて利用しています。一方、バーティカルSaaSは特定の業界に最適化され、より深いレベルで課題を解決します。
主な違いを以下の表にまとめます。
| 比較項目 | バーティカルSaaS | ホリゾンタルSaaS |
|---|---|---|
| ターゲット市場 | 特定業界・業種(狭く深い) | 業界問わず(広く浅い) |
| 市場規模 | 限定的だが独占しやすい | 巨大だが競争が激しい |
| 顧客単価 | 高価値な機能で高単価傾向 | 価格競争が起きやすい |
| 顧客獲得コスト | ターゲット明確で効率的だが、専門的なアプローチが必要 | マスマーケティング可能だが、競争激化で高騰しやすい |
| 解約率 | 業務に密着し、低い傾向 | 乗り換えが容易なため高くなる傾向 |
| マーケティング・営業手法 | 業界専門誌、展示会、FAX DMなどオフラインも重視 | Web広告やマス広告中心 |
| 競争環境 | 業界知識が参入障壁となり競合が少ない | 参入障壁が低く競合多数 |
| 求められる知識 | 深い業界知識が必須 | ビジネス・IT知識が中心 |
このように、バーティカルSaaSは専門家のような存在として業界課題に密着し、ホリゾンタルSaaSは汎用的な「万能選手」として広く使われている点が大きな違いです。
バーティカルSaaSが注目される理由とは?
今なぜ多くの企業がバーティカルSaaSに注目しているのでしょうか。業界固有の課題解決力や、競争環境、政策面での後押しなど、多角的な理由が存在します。
業界特有の課題をピンポイントで解決
バーティカルSaaSの一番の強みは、長年複雑化してきた業界特有の課題に、ピンポイントでアプローチできることです。
例えば、医療機関の診療報酬請求のような複雑な業務フローや、建設現場の膨大な安全管理書類の作成など、一般的なソフトでは対応が難しい業務にも適合します。
また、初めから業界向けに設計されているため、導入企業側での大幅なカスタマイズはほぼ不要です。これにより、導入スピードが速く、すぐに業務に適用できる「即戦力」となります。
- 業界特有の専門用語や帳票に標準対応
- ヒューマンエラーの防止や業務時間の大幅短縮
- 現場の使いやすさを追求した設計
新規参入が難しく競争が少ない分野
バーティカルSaaSは、一見ニッチな市場ですが、業界の専門知識(ドメイン知識)が大きな参入障壁となっています。
業界に深く根ざしたプロダクト開発には、単なるITスキルだけでなく、現場経験や業界ごとのルール理解が欠かせません。そのため、簡単に競合が現れにくく、導入されたサービスは業務の根幹に組み込まれるため、解約も起きにくい傾向です。
結果として、高い顧客定着率(LTV最大化)と、継続的な収益基盤(ARR)が見込めるビジネスモデルを築くことができます。
DX推進の後押しが追い風に
日本政府によるデジタル庁設置や、IT導入補助金制度などの公的支援策は、バーティカルSaaSの普及を大きく後押ししています。
特に中小企業向けには、初期費用だけでなくクラウド利用料の補助もあり、今までIT投資に慎重だった企業も導入に踏み切りやすい環境です。
また、働き方改革や法改正(例:建設・物流業界の「2024年問題」や医療DX推進、電子帳簿保存法の改正)が、バーティカルSaaS導入を“任意”から“必須”へと変えています。
政府や法規制の後押しにより、「今まで手をつけられなかった業界」でも導入が一気に進んでいます。
実際に導入されているバーティカルSaaS事例をチェック
業界ごとに、どのようなサービスが実際に導入されて成果を上げているのか、代表的な事例を紹介します。
医療業界の成功事例「Ubie(ユビー)」
Ubie株式会社の「AI問診Ubie」は、患者がタブレット端末に症状を入力することでAIが自動的に問診を進行し、医師が診察前に詳細な問診情報を確認できるサービスです。
- 看護師の問診業務が1人あたり30分から15分に短縮
- 医師1人あたりの診察可能人数が1.5倍に増加
さらに、退院時のサマリー作成などの医療文書業務もAIで自動化し、医師の事務作業時間を月30時間以上削減した病院もあります。
医療従事者の働き方改革と医療サービスの質向上の両立に寄与しています。
建設業界で導入が進む「SPIDERPLUS」
建設現場向けのクラウドサービス「SPIDERPLUS」は、図面管理や工事写真整理、検査記録作成などをタブレット1台で完結できるソリューションです。
- 写真データを図面上の正しい位置に紐付けて自動整理
- 報告書をワンクリックで自動生成
- 全国の建設現場で、協力会社との情報共有や現場管理を標準化
2024年の残業規制対応にも貢献しており、現場の業務効率化と長時間労働の是正を同時に実現しています。
介護業界の業務改善「カイポケ」
株式会社エス・エム・エスの「カイポケ」は、介護事業所向けの業務支援プラットフォームです。
- 介護保険請求業務を自動化
- 勤怠管理やシフト作成、ケア記録のデジタル化
- 採用支援や送迎ルート最適化など運営全体を支援
ある訪問介護事業所では、書類管理の時間が月100時間削減され、請求業務の内製化で年間120万円のコスト削減につながった事例もあります。
その他注目の分野

- 農業:「KSAS(クボタ)」…農機の稼働状況や圃場データを収集・分析し、コスト削減や品質向上を支援
- 不動産:「いえらぶCLOUD」…物件情報の一括掲載から契約手続きまでをオンライン化し、25,000社以上が利用
- 物流:「MOVO」…トラック予約受付や動態管理により、待機時間を大幅短縮し、物流DXを推進
バーティカルSaaSの導入メリットと注意点を比較検証

実際に導入する前に、バーティカルSaaSのメリットとリスクを客観的に理解しておくことが重要です。
導入するメリットとは?
- 業界特化型の機能が標準搭載されているため、大規模なカスタマイズが不要
- 導入後すぐに業務効率化やコスト削減などの効果が表れやすい
- サービスが業務の根幹に深く根付くため解約率が低く、業界のノウハウ共有やコミュニティ形成にもつながる
実際に、導入企業では早期のROI(投資対効果)を実感できるケースが多く、業務改善が短期間で進みやすくなります。
導入時の注意点とリスク
- 業界特化型のため、他業界や事業拡大への応用が難しい
- 市場規模が限られており、サービス選択肢が少ないこともある
- ベンダーロックイン(他社サービスへの乗り換え困難)になりやすい
- クラウドならではのセキュリティリスクやシステム障害時の業務停止リスクがある
導入前には、ベンダーの事業継続性やサポート品質、セキュリティ対策について慎重に確認することが不可欠です。
バーティカルSaaS市場の最新動向を掴む
日本国内のバーティカルSaaS市場は、DX推進政策や法改正の後押しもあり、近年急速に拡大しています。
市場規模はどれほど伸びている?
市場調査によると、日本のSaaS市場は年平均10%以上の成長を続けており、2024年には約1.4兆円、2028年には2兆円規模に到達する見込みです。
ホリゾンタルSaaSの主領域が成熟しつつある一方で、バーティカルSaaSはまだ未開拓の市場が多く、今後さらなる拡大が期待されています。
| 年度 | SaaS市場規模 |
|---|---|
| 2024年 | 約1.4兆円 |
| 2028年 | 約2兆円 |
また、ARR(年間経常収益)が100億円を超えるバーティカルSaaS企業も増加傾向です。
今後注目の業界と分野
すでに建設、医療、介護、不動産、農業などで導入が進んでいますが、今後は物流、製造、金融、保険、教育、法律といった分野でも、バーティカルSaaSによる業務改革が期待されています。
これらの業界は専門性が高く、紙や旧来システムが根強く残るため、SaaS導入による業務改善の余地が大きいと考えられています。
バーティカルSaaSを活用して業務改善を実現するためのポイント
バーティカルSaaSの導入を成功させるには、単にツールを選ぶだけでなく、導入目的や運用体制をしっかり整えることが欠かせません。
導入前に確認すべきポイント
- 自社の課題を明確にし、導入目的とサービスの適合度を評価する
- ベンダーのサポート体制やカスタマーサクセスの質を確認する
- 従業員向けの操作トレーニングや運用マニュアルが整っているかをチェックする
特に、ITツールに不慣れな従業員が多い現場では、手厚い導入支援やマニュアル整備が重要となります。
運用成功のための具体的なアクション
- 導入責任者を明確にし、導入から定着までを一貫して管理
- 書類作成や業務効率など、KPI(目標指標)を設定して効果を可視化
- ユーザーフィードバックを定期的に集め、運用ルールや活用法を継続的に改善
- ベンダーと積極的にコミュニケーションをとり、現場の声を製品改善に反映
現場とベンダーが「共創」する姿勢が、サービスの価値をさらに高めるカギです。
バーティカルSaaS導入で業務効率化を進めよう
バーティカルSaaSは、単なる業務効率化ツールではありません。
業界特有の言語や商習慣を理解し、現場の課題に本質的に寄り添う「戦略的パートナー」として、企業の持続的な成長を力強く支えます。
自社の業界や現場の課題をしっかりと見極めたうえで、最適なバーティカルSaaSの導入に踏み切ることが、これからの時代の競争力強化につながります。
まずは、自社の業務フローを見直し、現場で「本当に困っていること」が解決できるサービスかどうか、実際のデモやトライアルを通じてじっくり検討してみてはいかがでしょうか。
最適なバーティカルSaaSの活用が、貴社の業務改革と持続的な成長への一歩となるはずです。
キャククルでも、さまざまな業界向けバーティカルSaaSを詳しくご紹介しています。
ぜひ最新のサービス情報や事例比較にご活用ください。
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